9月某日、快晴。メルシャン勝沼ワイナリーに到着した秋元さんをまず「城の平」に案内する。 ガイド役は、チーフ・ヴィンヤード・マネージャーである斎藤浩。渡る風が頬をやさしく撫でる小高い丘にて、
甲州という日本特有のぶどう品種や勝沼という町の位置づけ、産業としてのワインの歴史、そして自社畑「城の平」の存在意義や役割についてふれる。
『ここ「城の平」では1984年から、カベルネ・ソーヴィニヨンを主に、試験のために様々なぶどう品種を導入して栽培を始めました。
それ以来、栽培面で高い品質のぶどうを収穫するために考えられることすべてを試験してきました。 その結果が「城の平カベルネ・ソーヴィニヨン」であり、長野や山梨、福島などにある契約栽培農家の方々に、
その成果を実践していただき、ぶどうの品質向上に繋げてきました。』(斎藤)
『日本のぶどう畑というと、つい棚を思い浮かべるのですが、垣根という栽培の形態があったというのは新鮮な発見ですね。
1本のワインを造るのに、どれくらいのぶどうが必要なのでしょう?』(秋元さん)
『だいたいですが、1本の樹でワイン1瓶の計算でしょうか。今年のぶどうの出来からすると問題はなさそうですが、
天候に恵まれない年はいいぶどうを収穫するために収量を制限しますから、1本の樹でワイン1瓶はあくまで目安ですね。 ぜひ一粒召し上がってみてください。』(斎藤)
『甘いですね! ワイン用のぶどうは酸味があってとても食べられないものかと思っていました(笑)。 こんなに甘さがあるなんて、驚きです。今年の出来はどうですか?』(秋元さん)
『もうすぐ収穫を迎えますが、今年は平年にない猛暑だったおかげで、ぶどうの生育もよく、期待できそうですね。
現在「城の平」は単一品種のカベルネ・ソーヴィニヨンで造られていますが、今後はボルドーのような世界的な銘醸地と同様、 個性の違うぶどうとアサンブラージュすることで、日本の風土に根ざしたフィネスとエレガンスを具現化していきたい。
「城の平」は試験農場として、そのための起点なのです。』(斎藤)
『新しいスタイルのワインができるのは、楽しみですよね。カリフォルニアのナパヴァレーには何度か行きましたが、
垣根の栽培を見て向こうの畑の光景が浮かんできました。お話を伺って、当たり前のことながらワインづくりは昨日今日の作業でできるものでないこと、自然を相手にする仕事であることが実感できました。』(秋元さん)
ワイン資料館では明治時代に溯り、水車を動力に使ってのぶどう果の破砕、果汁の扱いなど往時のワインの技術や仕込み方を秋元さんにご説明。
『このワイン資料館が建築されたのは明治37年で、今年100年目を迎える由緒ある建物です。日本にある木造の醸造所の中で最も古く、県の指定文化財にも指定されています。』(斎藤)
日本のワインづくりの歴史がつまった、見所多い資料館。 中でも日本に現存する最古のワインが展示されているコーナーを秋元さんは興味深く見入っていた。 「城の平」の畑、ワイン資料館とガイドした後、チーフ・ワインメーカーの味村興成が、秋元さんをワイナリーへとお連れする。
実際の設備を前に、赤、白それぞれのワインの仕込み方の違い、木桶とステンレスタンクによる発酵や熟成の違い、地下のワインセラーなどを説明する。
『このセラーは300万本の収納力を誇る、東洋最大規模のものです。シャトー・メルシャンのプライベートシリーズなど高級な赤ワインは、
ここで2年あまり瓶熟成された後出荷を迎えます。』(味村)
『ワインが奥までずっと並んでいて、本当に規模が大きいですね。世界中の年代物のワインも展示されているんですね。』(秋元さん)
『1949年にリリースされたシャトー・メルシャンのファースト・ヴィンテージをはじめシャトー・マルゴーのものなど、
オークションでもお目にかかれない貴重なワインも多数展示してあります。』(味村)
そしてメインのテイスティングへ。スッキリとした味わいの白が好き、という秋元さんに用意されたシャトー・メルシャンは、 白は「甲州シュール・リー2003」「甲州小樽仕込み2003」「J-fineシャルドネ&甲州2002」「長野シャルドネ
2002」「北信シャルドネ 2002」の5本。 赤は「J-fineメルロー&マスカット・ベリーA 2000」「長野メルロー1999」「桔梗ヶ原メルロー 1999」「桔梗ヶ原メルロー
1999 Signature」「城の平カベルネ・ソーヴィニヨン 2000」の5本である。
『まずは「甲州シュール・リー2003」。フランスのミュスカデで用いられている製造方法で、シュール・リーというのは澱の上という意味です。ワインを発酵させたあと、酵母をそのままにして旨みを引き出しています。』(味村)
『スッキリとした辛口で、とてもおいしいですね。家で料理をすることが多いのですが、こんなワインには和食もよくあいそうですね。新しいレシピのアイディアが生まれそうです』(秋元さん)
テイスティングは、「甲州小樽仕込み 2003」「J-fineシャルドネ&甲州2002」と進む。
『樽で仕込むと、クリーンな味わいの中にほのかな甘みがあるんですね。この複雑さが樽の魅力なんでしょうね。 2種類のワインをいただいたんですが、ひとくちに甲州といっても、こうして飲み比べてみるといろんな味わいがあるのだと感心します。』(秋元さん)
さらに「長野シャルドネ
2002」「北信シャルドネ 2002」」へとテイスティングは展開。
『「長野シャルドネ 2002」は、果実香が前面に現れ、シャルドネのもつ自然な酸味と小樽から受けたニュアンスが味わいに現れています。
「北信シャルドネ 2002」は、今年7月に行われた国産ワインコンクールで、全国から400点あまり出展された中から最高得点の金賞を受賞したものです。 長野シャルドネとはまた違った味わいだと思いますが、口当たりの果実味だけでなく、フレンチオークの樽がもたらす複雑な味わいが特徴です。』(味村)
『フレンチやイタリアンなどいろんな料理にも合うような味わいですね。全部のワインが個性やスタイルがあって、
しかも果実香も華やいでいて本当においしい。新しい発見です。』(秋元さん)
白につづいて赤ワインを利いていただく。「J-fineメルロー&マスカット・ベリーA 2000」「長野メルロー 1999」「桔梗ヶ原メルロー 1999」と進み、
ハイライトは「桔梗ヶ原メルロー 1999 Signature」と、実際に畑を見たばかりの「城の平カベルネ・ソーヴィニヨン 2000」である。
『どのワインも日本人の感性、風土、品種が生み出す豊かな個性をもっていることがお分かりいただけると思います。
「桔梗ヶ原メルロー」は、日本を代表する赤ワインということで、JALのファーストクラスで採用されてもいます。 私どもでは1998年からシャトー・マルゴーの総支配人であるポール・ポンタリエ氏を醸造アドバイザーに招聘しましたが、
氏のいうフィネスやエレガンス、ハーモニーを体現したのが「桔梗ヶ原メルロー 1999 Signature」です。 そして最後は、「城の平カベルネ・ソーヴィニヨン
2000」です』(味村)
『今日、城の平の畑に実ったぶどうを見てきて、実際にできたワインを味わうと感慨もひときわですね。粒も口に含んで、風味を感じてきたのですが、
あの若いぶどうがこんなに大人になったのか、という思いですね。』(秋元さん)
『以前は赤ワインもいただいていたのですが、最近はお肉よりお魚料理をいただくことが多くなり赤とは疎遠になっていて…。
近頃は飲み口のいい白を好んで飲んでいましたが、これは重くなりすぎず、でもしっかりした味わいがある。 こんな赤なら家でもおいしくいただけるかなと思いますね。』(秋元さん)
『今回は「城の平」の畑からワイン資料館、ワイナリーまでご覧いただきましたが、私達のワインはこれからも進化していきますので、
ぜひまた勝沼ワイナリーにお越しください。本日はどうもありがとうございました。』(味村)