福島県会津美里町「新鶴地区」では、30年以上前から「シャルドネ」を栽培してきたが、ぶどうづくりにかける情熱が実を結び、この春『シャトー・メルシャン 新鶴シャルドネ 2006』がANA国際線ファーストクラスの機内でサービスされるワインとして選ばれた(2008年3月から2009年2月まで)。今回の歳時記では、この栄誉を手にした契約栽培農家の歓びの声と新たな決意を、芽掻き講習会の模様と併せてお届けしたい。 『毎年6月になると、福島県「新鶴地区」の「シャルドネ」も「芽(新梢)掻き」の作業シーズンを迎えます。ぶどうは産地や品種によって「芽掻き」の時期が異なります。山梨では例年、5月の連休明けから始まりますが、産地が北になるほど生育のステージが遅くなるので、今年も6月を迎えてから「新鶴」を訪れ、作業手順を契約栽培農家のみなさんと確認しました。』 『芽掻きはぶどうを栽培する一年のサイクルの中で、収量を制限し品質の高いぶどうを収穫するための大事な作業です。芽(新梢)の数を多く残すとぶどうに与える養分が散漫になり、品質に影響を及ぼします。また新梢が多いと果房に日光が当たらなくなるばかりか、風通しも悪くなり病気発生の原因になるため、不要な芽(新梢)を掻き取ることでぶどうが良好に育つようにサポートしてあげなくてはなりません。この時期の指導内容は、結果母枝の長さに応じて残す新梢数を決め、一新梢に対し、2つの花穂(果房)を残すこと。併せて新梢を誘引しながら、岐肩と余分な花穂(果房)も手(爪)で掻いていくことを説明し各園で実地確認しました。花穂(果房)の穂梗が太く(硬く)なると、鋏を使って切除することになり手間がかかります。穂梗が柔らかい時期に掻くと作業を省力化することが出来るのです。毎年恒例の講習会で、この時期にしなくてはならない作業を、より良いぶどうづくりのために双方で確認し合うことが重要のです。』 露地栽培と、雨除け栽培では、芽掻きの仕方も若干異なる。また垣根や棚、短梢など仕立てによっても違いはあり、一結果母枝に対し残す芽(新梢)の箇所もケースバイケースである。どの芽(新梢)を残すかは園主の判断を重視するが、判断基準を示すのが栽培管理を指導する弦間の役割である。今回の講習会では、参加されたみなさんの眼差しはいつにも増して真剣だ。ANA国際線ファーストクラスの機内でサービスされるワインとして『シャトー・メルシャン 新鶴シャルドネ 2006』が選ばれたが、組合が生産する「シャルドネ」の品質に対する責任と誇りが参加者の眼からも十分に感じられた。 『ANA国際線ファーストクラスの機内でサービスされるワインは、約1,000本の応募のなかから書類審査を通過した約200本をブラインドテイスティング選考会にて最終的に23本にしぼられます。このように厳しい審査を通して選ばれたワインは、毎年世界のワイン愛好家の関心を集めていますが、数多くの輸入ワインが競合する中、『シャトー・メルシャン新鶴シャルドネ 2006』が選ばれたことは、契約栽培農家のみなさんと栽培指導を通してお付き合いしている自分にとって、本当にうれしいニュースでした。しかも日本ワインが選ばれたのも10年ぶりという快挙でしたから。これまで情熱をもって「新鶴シャルドネ」を栽培してこられた「ワインブドウ根岸生産組合」のみなさんの日頃の苦労を知るだけに、喜びもひとしおです。』 「新鶴シャルドネ」を栽培する「ワインブドウ根岸生産組合」は、斎藤勝男組合長を筆頭に11戸の農家で構成される。組合員が一致団結し、ANA国際線ファーストクラスの機内でサービスされるワインにふさわしい、「シャルドネ」を栽培してきたわけだが、今回はその栄誉に対する喜び、これからの思いなどをそれぞれに語っていただいたのでご紹介したい。 『今回の栄誉は2月の半ばに弦間さんから報告をいただきました。その後には福島民友新聞の取材を受けたり、地元である会津美里町の観光課もニュースとして大きく取り上げるなど、組合のこれまでの頑張りが評価されたのだなあ、と正直に嬉しかったし、喜びをかみしめました。「北信シャルドネに追いつけ、追い越せ」を合言葉に、「ワインブドウ根岸生産組合」が一致団結してきましたが、今後も「より品質の高いぶどう」を収穫するためにこれからも尽力していきたいと気持ちを新たにしています。(斉藤勝男組合長)』 『最大で34戸の組合員が、今では1/3の11戸になりましたが、諦めないで「シャルドネ」を栽培してきて本当に良かったと思うし、今は誇らしい気持ちで一杯です。高齢化も進み、将来も心配ですが若い世代も会社勤めをしながら、畑に出るようになってきました。我々現役はお互い健康に留意しながら、弦間さんのご指導のもと、これからも頑張っていきたいですね。(五十嵐善佑さん)』 『雪が降る会津での垣根栽培は、当初は自然相手で大変な苦労はあったし、それは今も変わりません。でも栽培をする以上は、人には負けていられないし(笑)、手間を惜しまず、品質に妥協のない「シャルドネ」を造っていきたいですね。ANAに選ばれたのは凄いことだけど、まだピンとこない。ファーストクラスに乗れば、実感するんだろうけどな(笑)。(佐藤孝美さん)』 福島県会津美里町「新鶴地区」は会津盆地の西側に位置し、日当たり、水はけともに良い丘陵地にある。標高は200mと比較的低い平地だが、内陸性気候のおかげで昼夜の温度差も大きく、ぶどう栽培に適している。だが毎年のように収穫前には秋雨に襲われ、質の良いぶどうを手にするために苦労を重ねてきたという事実もあった。今日では雨除けのビニールのお陰で、安定して、健全果のぶどうを収穫できるようになったが、その先駆者こそが斉藤幸蔵さんである。 『春先からの苦労を台無しにしたくない。収穫期を目前にしてぶどうを病気から守りたい。その一心でビニールシートでぶどう棚を覆う「雨除け」を施したのが1998年。これによって秋雨にたたられ、収穫皆無状態になるぶどうを無念の想いで眺めることもなくなった。問題の根源は、この土地特有の気象だったのですが、何事も諦めたら駄目。我々の頑張りが報われるような、まっとうな評価が得られる「シャルドネ」をこれからも造っていきたい。先のことは考えないで、目の前のことをやる、ただそれだけです。(斉藤幸蔵さん)』 『減反の話があった頃、一度は組合から脱落しかけたんです。でも幸蔵さんが雨除けという凄い発明をしてくれたお陰で今日まで続けられました。昔はこのあたりも婚礼や秋祭などで、人の交わりも濃かったのだけれど、今はすっかり薄くなりました。でも、ぶどう栽培をやっているお陰で、今回のようなご褒美もあるし、助け合いを含め、昔ながらの自然な付き合いができるのも組合の大きな財産だと思っています。(木村忠一さん)』 『「新鶴のシャルドネ」がANAの国際線に乗っていると思うだけで、凄いんだなあと・・・。我が「組合」の誇りそのものだよねえ。手は掛かるし、雪や雨、風など自然を相手に、ぶどうを含め作物を育てるということは忍耐を強いるし、苦労は耐えないものだけれど、こうして日頃の頑張りが報われて正直にうれしい。我々への今回の高い評価を励みにこれからも頑張っていきますよ。(山内久義さん)』 『父から35アールのぶどう畑を継承しましたが、大工仕事の傍らの作業なので、どうしても手が回りきらないのが実状です。でもこれだけ「新鶴シャルドネ」が注目されると、そうもいっていられないし今回の講習会にも初めて参加しました。大いに勉強になりましたし、弦間さんの指導を受けながら、栽培の技術を高めていければと思っているところです。(斉藤孝弘さん)』 『この組合に入り「シャルドネ」を栽培して33年ほど経ちます。今回の吉報は、組合長から聞きましたが、そりゃあ驚きました。でもさらに良かったと思うのは、息子を含め、若い人たちが、ぶどう栽培に今以上に関わっていく契機になるだろう、という期待をもてたこと。座右の銘は、『本気で働く』。ごまかしたら、ぶどうでも何でも結果に出る。これまで以上に熱意をもって頑張っていきます。(五十嵐春雄さん)』 おしまいに、「ワインブドウ根岸生産組合」の次世代を担う若者からの抱負をお届けしたい。親子二代揃って「新鶴シャルドネ」と向きあう一条さんがその人だ。 『「新鶴シャルドネ」がANAの国際線に乗ることは、友人からの電話で知りました。ビックリしたし、親父たちのこれまでの取り組みが報われたんだなと息子としても心から喜べました。畑での仕事は親父との分担となりますが、新梢の誘引の仕方など、ぶどうの樹の管理はもっと親父から教わりたいと思っています。あと、経験の浅い身としては、年に数回ある講習会は、本当に貴重な機会だと思っています。弦間さんは自分にとっての手本であり、教科書なんですよ。口に出して言うのは照れますけどね(笑)。(一条悟さん)』
今回の「芽掻き講習会」には、会津における一文字短梢仕立ての先駆者である風間忠正(ちゅうせい)さん、熟練の技術でぶどうの品質向上に努める五十嵐一男さんは、体調不良のため参加できなかったが、お二人のこれまでのご尽力にも深く感謝したい。精鋭11戸の「新鶴シャルドネ」栽培農家は、次の高みを目指し、動き始めている。