桜色から桃色へ。甲府盆地が春の訪れを告げる色に染まる4月は、シャトー・メルシャン「甲州ワイン」の新ヴィンテージが次々リリースされていく時期でもある。今月の歳時記では、チーフワインメーカーの味村の声を通して、各『甲州ワイン』の個性、位置付け、銘醸地としての「勝沼」の現状についてご紹介したい。 『メルシャンでは、日本固有のぶどう品種「甲州」を使い、個性とオリジナリティのあるワインを数多くお届けしてきました。甘口から熟成タイプの辛口、そして口中のアタックを楽しめる「あわ」など、種類はまさに多彩です。今回の歳時記では、なかでも「シャトー・メルシャン 甲州きいろ香」、「シャトー・メルシャン 甲州グリ・ド・グリ」そして、「シャトー・メルシャン勝沼甲州」の新ヴィンテージについて取り組みや各ワインの個性についてお話をしたいと思います。』 『シャトー・メルシャン歳時記では、これまで当社のさまざまなワインや取り組みについてご紹介してきましたが、ずっと未掲載だったワインがあります。「シャトー・メルシャン勝沼甲州」がまさにそのアイテムで、ファースト・ヴィンテージは2008年の5月。今号ではまず、このワインが生まれた背景、製法における長い歴史にふれながら、個性ある味わいをご紹介します。』 「シャトー・メルシャン勝沼甲州」は、シュール・リー製法によってつくられるワインである。“シュール・リー”とは、フランス語で「澱(おり)の上」という意味。澱とは発酵後に残っている酵母のことで、通常、クリーンでない澱はワインに雑味を与えるため、発酵後は取り除かれる。しかし、逆にクリーンな澱を活かすと、味わいに複雑さと厚みが加わる。日本で初めてシュール・リーのワインを具現化したのがメルシャン勝沼ワイナリーである。 『シャトー・メルシャン勝沼甲州」の前身である、「シャトー・メルシャン甲州シュール・リー」が生まれるきっかけになったのは1983年。「フランスのロワール地方のワイン「ミュスカデ」はシュール・リー製法を用いて、味わいに厚みのある辛口のワインを造っているが、その手法を「甲州」でも活かしてみてはどうか」という話が発端となりさっそく実用化に向けて実験がスタートしました。発売されたのは翌84年で、勝沼の東雲(しののめ)地区のぶどうを使ったことから、「甲州 東雲シュール・リー」という名でデビューを飾りました。以後、メルシャン勝沼ワイナリーでは、「日本のワイン産業発展のため、シュール・リーという技術を、勝沼の他のメーカーにも使ってもらいたい」という思いから、勝沼ワイン協会を通して情報を公開。今では“甲州のシュール・リー”は、「甲州」の辛口ワインの代名詞となっています。』 『「甲州」の秘められた才能を大きく開花させた「甲州 東雲シュール・リー」が生まれてから、メルシャン勝沼ワイナリーでは、このワインをさらに進化させるために、毎年さまざまな取り組みをしてきました。シュール・リー製法の場合、酵母の役割が非常に大きいので、酵母の選抜は入念かつ多面的に行ってきました。また酵母違いのキュヴェ(原酒)をブレンドするなど、「甲州」の繊細さを鑑みながら、25年の長きにわたりヴィンテージの特徴を活かしたワインをお届けしてきました。』 2008年5月。「甲州 シュール・リー」のファースト・ヴィンテージから25年を迎えたのを機に、当社が培ってきたシュール・リー製法を踏襲しながらも、新しいワインとしてつくられたのが「シャトー・メルシャン勝沼甲州」である。 『「シャトー・メルシャン 勝沼甲州 2007」で使用したぶどうは、勝沼地区のタンニンが多く、しっかりとした味わいをもつ勝沼産の「甲州」を100%使用。培ってきたシュール・リーの技術を駆使し、酵母からうまみを引き出したことで、このヴィンテージは第6回国産ワインコンクールの金賞を獲得しました。ボトルも初期のブルゴーニュ瓶に戻し、シュール・リーの文字はあえて主張させずに小さく抑えました。また、新ヴィンテージである2008年は、爽やかな柑橘系の香り、やわらかな酸味としっかりした厚みをもつ芳醇な味わいとなっています。』 「シュール・リー製法の場合、ワインに果たす酵母の働きがとにかく大きい。どの酵母を使ったら、より完成度の高いシュール・リーになるか。毎年いくつものレシピが試され、その結果をつぶさに検証してきたが、そうした試験の中で、「シャトー・メルシャン 甲州 きいろ香」が生まれる発端となった香りもこの取り組みの中で、2003年に発現された。発見は偶然ではあるが、このような「幸運な偶然」はこのような努力を重ねている中で時として起こるものである。 『試験醸造した「甲州」のキュヴェから、柑橘系の香りの要素が見つかったのは2003年。翌2004年、ボルドー第2大学醸造学部デュブルデュー研究室でリサーチエンジニアとして活躍されていた故・冨永博士の協力を得て生まれたワインが「シャトー・メルシャン甲州きいろ香」です。(そのあたりのいきさつは、ヴィンテージの切り替えのたびに歳時記でふれてきましたので、シャトー・メルシャンのホームページにありますバックナンバーをご参照ください。)、2008年ヴィンテージでは、単一区画、単一キュヴェから転換し、複数区画の有効なキュヴェをブレンドすることで、より奥行きのある香りをもたらすワインのつくりをめざしました。グレープフルーツや黄色い果皮を持つ和柑橘の香りをもったキュヴェ、パッションフルーツやライチなど南国フルーツの香りをもつキュヴェ、温州みかんに代表される果皮がオレンジ色の柑橘を感じさせる香りをもったキュヴェ。3つのキュヴェが融合し、グレープフルーツやパッションフルーツなどの華やかさに加え、日本特有の柑橘類の香りが複雑に香り、しっかりとした酸味と適度な果実味をもった、エレガントで洗練された味わいとなっています。』 一方、「シャトー・メルシャン 甲州グリ・ド・グリ」のファースト・ヴィンテージは2002年。このワインは、2005年ヴィンテージで、「甲州」が元来もっていた、ブルガリアンローズなどの香りの要素が確認されて以来、その香りもワインの個性のひとつとして引き出すよう醸造をしてきた。 『「シャトー・メルシャン 甲州グリ・ド・グリ」は、「甲州ぶどう」特有の淡い赤紫色色の果皮がもつ、特徴的な色と味わいを引き出したワインです。2005年ヴィンテージからは、当社の「甲州アロマプロジェクト」の成果で、ブルガリアンローズやアップルコンポートの甘美な香りの要素「ベータ・ダマセノン」の特徴が十分に表れるようになってきています。誕生してからずっと、食事が美味しく感じられるスタイルを追求してきていますが、「甲州」というぶどう品種独特の渋みとともに、厚みのあるまろやかな味わいが印象的なワインとなっています。』 『こうして、「甲州ワイン」の3つのタイプを改めてみつめてみると、いずれもその個性が際立っていますよね。「シャトー・メルシャン甲州 きいろ香」は、香りに焦点を当て開発し、厳選したキュヴェから得られる「香り」と切れの良い酸味のバランスこそがアイデンティティのワイン。「シャトー・メルシャン甲州 グリ・ド・グリ」は、「甲州」のもつ「うまみ」を存分に引き出すことを主眼としたワイン。そして「シャトー・メルシャン勝沼甲州」は、果皮由来のうまみと酵母からのうまみ、香りとのバランスもよくて、しかも値段もリーズナブル。まさに三者三様、ブドウが本来持っている様々なポテンシャルをそれぞれの側面から素直に引き出してあげることで、このようなワインたちが出来上がるのですから、ワイン作りは本当に面白いと思います。』 多様なワインの楽しみを提供する、日本固有のぶどう品種「甲州」。古くから、一大ぶどう産地として、ワイナリーが数多く存在する日本有数の銘醸地である「勝沼(甲州市)」。今後の行方について味村は次のように語る。 『すでに新聞などで取り上げられていますが、「甲州ぶどう」及び「甲州ワイン」の産地である勝沼では、さまざまなことが実際に起きています。「甲州」が国内外で脚光を浴びたことで、山梨県としても「甲州ワイン」の輸出を積極的にバックアップしていますし、需要の伸びから、勝沼産の「甲州ぶどう」が足りなくなってきているという事実も垣間見えます。一方、栽培農家の高齢化は進んでいますし、また自然相手の農業である以上、昨年のように天候不順によって収穫量が思うに任せない事態もあることでしょう。原料ぶどうの確保は文字通り、ワインメーカーの生命線を左右しますが、メルシャン勝沼ワイナリーでは、これまで通り地域との共生を念頭に、「甲州」の次なる可能性を見据えて、確固たる歩みを記していきたいと思っています。』 そのワイン、そのワインがもっている魅力を、余すことなくそのまま瓶に詰めたいというスタッフの熱い想いから、瓶詰めの直前までアイテムに応じた作業は最後まで手を抜かずに行うことで、品質という旗印とともに世の中に旅立つメルシャン勝沼ワイナリーのワインたち。「シャトー・メルシャン 甲州 きいろ香」、「シャトー・メルシャン 甲州グリ・ド・グリ」の各08ヴィンテージは、すでに好評発売中ですので、メルマガ読者のみなさまもぜひお早めにご賞味ください。 *「シャトー・メルシャン 勝沼甲州」は5月20日発売予定