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Vol.7シャトー・メルシャン工場長 ゼネラル・マネージャー 松尾 弘則

ブドウのポテンシャルを最大限引き出した日本ワインのフィネス&エレガンスを、
一人でも多くの海外の方に感じていただきたい。

ニューヨーク・ワイン・エクスペリエンス—世界最大級の発行部数を誇る、アメリカのワイン専門誌『ワイン・スペクテイター』が、世界のトップワイナリーを招待してニューヨークで開催する一大ワインイベント。この世界的な舞台には、同誌が選び抜いた約250のワイナリーが世界各国から招かれる。そこに日本で唯一、招待を受けているワイナリーが、『シャトー・メルシャン』である。1991年に初めて招かれてから13回目となる今回、グランド・テイスティングに出品するのは、『シャトー・メルシャン マリコ・ヴィンヤード オムニス2009』。10月22日から開催されるこの世界的なワインイベントに際し、シャトー・メルシャン工場長の松尾弘則に抱負とワインにかける想いを聞いた。

松尾 弘則シャトー・メルシャン工場長 ゼネラル・マネージャー

86年入社後、メルシャンのワイン造りの現場である藤沢工場を皮切りに、中央研究所、酒類技術センターで経験を積む。94年からアメリカのマーカム・ヴィンヤーズに駐在し、帰国後はシャトー・メルシャン製造課、品質管理部長を歴任し一貫してワイン造りに関わってきた。2014年4月からシャトー・メルシャン全体を統括するゼネラル・マネージャーに就任。デイリーワイン、輸入ワイン、ファインワインでの多様な業務経験、知見を活かし、『シャトー・メルシャン』でのワイン造りに想いを注ぐ。

昨年のテイスティング会場の様子は、どのような雰囲気でしたか?

「ニューヨーク・ワイン・エクスペリエンスは、『ワイン・スペクテイター』誌がワインの品質を高く評価したワイナリーだけを招待するテイスティング・イベントです。メインのグランド・テイスティングでは、世界の一流ワイナリーがブースを構え、それぞれのワインをワイナリーオーナーもしくはワインメーカーがサービスします。地元の著名人をはじめ、ワイン愛好家もいらっしゃいますので、とてもにぎやかな雰囲気です。」

「昨年も、『シャトー・メルシャン』を多くの方にテイスティングしていただきましたが、非常に好評で、“いいね。日本で、こういうワインができているんだ。”という驚きのコメントを大勢の方からいただきました。とても嬉しかったと同時に、日本でこうしたワインができていることをもっと世界に広く認知されるよう、がんばらなければと決意を新たにしました。」

世界の中で、日本のワインは、どういう位置づけにあるのでしょうか?

「どういうレベルにあるのかは気になるところですが、ただ私たちのワインづくりに対する考え方というのは、世界に追いつけ追い越せではなく、日本人の食生活に合うような“フィネス&エレガンス(調和のとれた上品さ)”をめざすことにあります。日本の気候風土で獲れたブドウのポテンシャルをそのままワインに導き、日本ならではの味わい、日本人にフィットしたワインをつくる。そうしたワインづくりで世界に認められる存在になりたいと考えています。」

「今年出品する『マリコ・ヴィンヤード オムニス』は、ボルドースタイルのブレンドですが、日本のブドウで日本人の味覚に合うよう調和の取れた味わいを追求しています。国際的なテイスティングの場で、“いいね”というコメントをいただいているのも、そうした日本のワインづくりが評価されているからと理解しています。」

シャトー・メルシャンとして、どういう姿勢でワインづくりに取り組んでいるでしょうか。

「ワインづくりは良質のブドウをつくるところから始まります。ワイン醸造の過程では、収穫されたブドウのポテンシャルを仮に100とすると、その状態を損なうことなく、100の力を持ったワインにするかであり、如何に良いブドウを育むかが重要になります。メルシャンには商品開発研究所があり、ブドウやワインに関していろいろ分析を行っています。そうしたデータを栽培家の方にフィードバック、共有し、更なる良質のぶどうを育みために、コミュニケーションを深めています。」

ニューヨーク・ワイン・エクスペリエンスへの参加も含めて、今後の抱負をお願いします。

「この10年で日本ワインの品質は格段に上がりました。それを裏付けるように日本ワインの消費は伸びていますが、この先まだ伸びていく余地はあると考えています。そのためには、原料となる良質のブドウの確保が必要です。地域の方々と一緒に、新しい産地・名醸地の開拓に取り組んで、いいワインを一人でも多くの方に楽しんでいただけるように取り組んでいきたい。そういう中で、ニューヨーク・ワイン・エクスペリエンスやワインコンクールのような国際的な舞台で高い評価を受けるということは、ワイン産地のブランディングはもちろん、栽培家の方のモチベーションにもつながると思います。」

「今回のニューヨーク・ワイン・エクスペリエンスでも、『シャトー・メルシャン マリコ・ヴィンヤード オムニス 2009』を海外の方に評価していただき、品質の高さをアピールしてきたい。“オムニス(OMUNIS)”というのは、“すべて・全能の”を意味するラテン語ですが、椀子(マリコ)ヴィンヤードのすべてを堪能できるワインという意味合いも込めています。椀子(マリコ)ヴィンヤードで獲れたカベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルローといった品種から醸造した赤ワインの原酒を厳選、ベストバランスでブレンドすることで最高のポテンシャルを引き出しているので、ぜひ、その味わいを海外の方に感じていただきたいと思います。」

最後に、ワインを楽しむ方にメッセージをお願いします。

「ワインというのはどうしてもハレの日の飲み物になりがちですが、普段の食卓に当たり前のように日本のワインが並ぶようになってほしいですね。週末は、家族と一緒にワインを楽しむという光景が日常になると嬉しい。食卓にワインがあれば、料理との相性など、食について語りたくなります。もちろんこのワインが飲みたいから、こういう料理をつくるというのもあるでしょう。ワインは食卓を華やかにし、豊かにします。日本の風土が培ったものだからこそ、その土地で獲れたものと一緒に食べることが、ワインを豊かに楽しむことにつながる。日頃の食生活に日本のワインが自然に溶け込んでいるというのが理想ですね。」

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